かつては「35歳を過ぎると転職が難しい」「40代・50代になれば定年まで同じ会社で働く」という考え方がありました。
しかし、現在はその状況が変わりつつあります。
豊富な経験や専門知識を持つ40代・50代の人材を求める企業が増え、ミドル世代の転職も活発になっています。
では、長年働いてきたベテラン社員は、なぜ転職を考えるのでしょうか。
ベテラン社員が転職を考える理由は、給与や待遇への不満だけではありません。
「この会社での将来が見えない」「もっと経験を生かしたい」「これからの働き方を見直したい」。こうしたキャリアへの思いが背景にある場合もあります。
今回は、40代・50代の転職動向と、ベテラン社員が転職を考える背景、そして企業に求められるキャリア支援について、キャリアコンサルタントの視点から解説します。
1.40代・50代の転職は本当に増えている?
株式会社リクルートが2025年3月に発表した調査によると、同社の転職支援サービス「リクルートエージェント」を利用して転職した40代・50代の人数は、2014年から2024年の10年間で約6倍に増加しました。
40代・50代の転職者数
リクルートエージェントの実績(2014年→2024年)
約6倍
出典:株式会社リクルート(2025年3月25日)
特に50代の転職者数の伸びが大きく、ミドル世代の転職市場が変化していることがわかります。
※「約6倍」はリクルートエージェントの転職者データによるもので、日本全体の転職者数が6倍になったという意味ではありません。
一方、総務省の「労働力調査」によると、2025年平均の転職等希望者数は1,023万人でした。
転職等希望者数
1,023万人
2025年平均
実際の転職者数
330万人
2025年平均
転職等希望者数は2015年の812万人から増加しています。ただし、転職を希望することと、実際に転職することは異なります。
ここが重要です
40代・50代でも、転職を含めて自分の働き方やキャリアを見直す選択肢が広がっています。
参考:株式会社リクルート調査 / 総務省「労働力調査」
2.ベテラン社員が転職を考える4つの背景
40代・50代が転職を考える理由は、人によって異なります。給与や労働条件だけでなく、これまでの経験、職場での役割、今後の人生設計など、さまざまな要因が関係します。
キャリア支援の視点から、次の4つの背景を考えてみましょう。
転職を考える4つの背景
※この4項目は特定の調査のランキングではなく、キャリア形成の観点から整理したものです。
① この会社での将来が見えなくなった
40代・50代になると、これまでの経験から自分の会社での将来をある程度予測できるようになります。
- 管理職のポストが限られている
- 今後の昇進や昇給が期待できない
- 同じ仕事を長年続けている
- 定年までの働き方が想像できてしまう
こうした状況の中で、「このまま働き続けてよいのだろうか」と考えることがあります。
これは必ずしも会社への不満だけではありません。自分の可能性を、もう一度考え直したいという気持ちが背景にある場合もあります。
② 自分の経験や能力が評価されていない
ベテラン社員の仕事には、数字だけでは測れない貢献があります。
- 若手社員への指導
- 顧客との信頼関係の構築
- トラブルへの対応
- 業務改善やノウハウの共有
こうした仕事は日常的に行われているため、その価値が見えにくくなることがあります。
本人は会社に貢献しているつもりでも、その貢献が評価されなければ、働く意欲の低下につながる可能性があります。
③ これからの働き方や人生を見直したい
40代・50代は、仕事以外の生活にも変化が生じやすい時期です。
子どもの独立、親の介護、自分自身の健康、定年後の生活など、人生全体を見直す機会が増えます。
「これからは家族との時間も大切にしたい」
「管理職よりも現場で専門性を発揮したい」
「定年後も続けられる仕事を考えたい」
キャリアとは、単に昇進や転職を意味するものではありません。
仕事と生活の両方を含めて、これからどのように生きていきたいのかを考えることも、キャリア形成の重要な要素です。
④ 新しい仕事に挑戦したい
長年の経験を持っているからこそ、別の分野でその能力を生かせる可能性もあります。
ただし、転職には収入の変化や新しい職場への適応などの課題もあります。
そのため、転職だけを前提にするのではなく、現在の職場で新しい役割に挑戦することも含めて検討することが大切です。
3.40代・50代はキャリアの転換期
キャリア発達理論の観点からも、40代・50代はこれまでの働き方を見直す重要な時期と考えられます。
キャリア研究者のドナルド・スーパーは、キャリア発達を生涯にわたる過程として捉えました。
キャリア発達理論
ドナルド・スーパー
キャリアの発達は若い時期だけで終わるものではなく、生涯を通じて続くと考えます。成人期にも、変化に応じて新しい役割を探索したり、仕事への関わり方を見直したりすることがあります。
つまり、40代・50代になったからといって、キャリアの発達が終わるわけではありません。
それまで積み重ねてきた経験を振り返り、これからどのような仕事や役割を担いたいのかを考えることが大切になります。
40代・50代は、これまでのキャリアを振り返り、これからの働き方を再設計する時期でもあります。
例えば、管理職から専門職へ役割を変えることや、若手社員の育成に力を入れることも考えられます。
大切なのは、年齢だけで役割を決めるのではなく、本人の価値観や希望、能力を踏まえて考えることです。
4.企業が見落としやすいベテラン社員の価値
企業にとって、ベテラン社員の退職は単に一人の従業員が減るという問題ではありません。
長年蓄積されてきた知識や技術、顧客との信頼関係、社内での人間関係などが失われる可能性があります。
ベテラン社員の退職によって生じ得る影響
経験に基づく判断や、マニュアル化されていない業務知識が失われる可能性があります。
長年担当してきた社員の退職によって、顧客対応や信頼関係の引き継ぎが必要になります。
後任者の採用や業務習得に時間と費用がかかる場合があります。
相談相手や指導者を失うことで、若手社員の育成や職場環境に影響する可能性があります。
特に中小企業では、特定の社員に業務やノウハウが集中していることもあります。
企業は売上や業績だけでなく、社員が日常的に果たしている役割にも目を向ける必要があります。
ベテラン社員の価値は、数字だけでは測れません。
5.ベテラン社員の定着に向けて企業ができること
では、企業はどのような取り組みを行えばよいのでしょうか。
キャリアコンサルタントの視点から、特に重要だと考える3つの取り組みを紹介します。
① 本人がこれから何をしたいのかを確認する
企業が最初に取り組みたいのは、社員との対話です。
キャリア面談で聞きたい4つの質問
これまでの仕事で、最もやりがいを感じたことは何ですか?
今の仕事で、十分に生かせていない経験や能力はありますか?
これからどのような仕事や役割に挑戦したいですか?
今後の働き方について、どのような希望がありますか?
重要なのは、企業が期待する役割を一方的に伝えるだけで終わらせないことです。
本人が何を大切にしているのか、どのような将来を考えているのかを理解することが出発点になります。
② 年齢ではなく経験や能力を生かせる役割を考える
40代・50代の社員全員が、管理職を目指しているわけではありません。
人を管理することが得意な人もいれば、専門的な仕事に集中することで能力を発揮できる人もいます。
経験を生かす役割の例
- 専門職として技術や知識を生かす
- 若手社員の育成を担当する
- 社内研修の講師を担当する
- 業務改善や技術継承に関わる
本人の希望と会社が必要とする仕事をすり合わせ、双方にとって納得できる役割を検討することが重要です。
③ キャリアについて考える機会を定期的につくる
日常業務の中では、社員が自分のキャリアについてじっくり考える機会は多くありません。
企業が意識的に、キャリア研修やキャリアコンサルティング面談などの機会を設けることが大切です。
厚生労働省が推進
セルフ・キャリアドック
キャリア研修とキャリアコンサルティング面談などを組み合わせ、従業員の主体的なキャリア形成を体系的・定期的に支援する取り組みです。
これまでの経験を振り返り、自分の強みや今後のキャリアについて考える機会をつくります。
個別の対話を通じて、本人の希望や課題を整理し、今後のキャリア形成を支援します。
ただし、キャリア面談は社員を会社に引き留めるためだけのものではありません。
社員自身が納得できるキャリアを考え、その実現を支援することが基本です。
6.キャリアコンサルタントが果たす役割
キャリアコンサルタントは、働く人が自分自身の経験や能力、価値観を整理し、今後のキャリアについて主体的に考えられるよう支援する専門家です。
40代・50代のキャリア支援では、例えば次のようなことを一緒に考えていきます。
- これまでどのような経験を積んできたのか
- 仕事の中で何を大切にしてきたのか
- 自分の強みや専門性は何か
- これからどのような働き方を望んでいるのか
- 現在の職場で実現できることは何か
キャリアコンサルティングは、必ずしも転職を勧めるものではありません。
キャリアの選択肢は転職だけではありません
新しい役割に挑戦する
専門性を高める
転職を検討する
本人が自分の経験や価値観を整理し、さまざまな選択肢の中から主体的に意思決定できるよう支援します。
また、企業内で実施する場合には、面談内容の守秘義務や個人情報の取り扱いにも配慮することが重要です。
社員が安心して自分の考えを話せる環境があってこそ、キャリア支援の意味があります。
キャリアコンサルタントの視点
大切なのは、転職するか、今の会社に残るかという結論を急ぐことではありません。本人がこれからどのように働きたいのかを整理し、納得できる選択につなげることです。
7.まとめ|40代・50代のキャリアを見直すことは企業にとっても重要
40代・50代の転職が活発になっている背景には、企業の人材需要の変化だけでなく、働く人自身のキャリアに対する意識の変化もあります。
長年働いてきた社員であっても、これからの働き方や人生について悩み、別の選択肢を考えることがあります。
企業が大切にしたいのは、「この年齢なら辞めないだろう」と考えるのではなく、一人ひとりがどのようなキャリアを望んでいるのかを理解することです。
今回のポイント
01 40代・50代の転職市場は変化している
02 転職を考える理由は給与だけではない
03 企業は社員の経験や価値観を理解することが大切
04 キャリア研修や面談を通じた支援が重要
40代・50代は、
キャリアの終わりではありません。
これまでの経験を生かし、
これからの働き方を考える大切な時期です。
企業と社員が対話を重ね、お互いにとって納得できるキャリアを考えていくことが、今後ますます重要になるでしょう。