# 従業員エンゲージメントから見る日本の未来

– 目次 –

1.　はじめに

2.　未来人材ビジョンとは

3.　従業員エンゲージメントとは

4.　労働者・転職者を支援していくために

5.　まとめ

01. はじめに

 
 
「日本企業の従業員エンゲージメントは世界全体を見て最低基準である」

そんな、あまりに耳に痛い言葉がズラリと並んだ資料が、

今年の5月に経済産業省から

「人材未来ビジョン」という名で発表されました。

メディアにも多く取り上げられ話題となりましたが、

この発表を受けて、世界における

日本の競争力の低下の現状が赤裸々になりました。

 
 

02. 未来人材ビジョンとは

 
 
「未来人材ビジョン」は、

2030年・2050年の産業構造の転換に向けて、

人材育成策を議論する「未来人材会議」がまとめたものです。

雇用と人材に関する日本の現状について調査し、

「産官学が目指すべき人材育成の大きな絵姿を示す」ことを

目的として経済産業省から発表されました。

東京大学の柳川範之教授が座長を務め、

日立製作所やディー・エヌ・エー、富士通やトヨタ自動車など、

日本を代表する大企業から委員やゲストスピーカーが参加しています。

資料は109ページに及び、雇用や教育、

社員への投資など内容は多岐に及びますが、

「企業が人に投資せず、個人も学ばない」
「日本の部長の年収はタイよりも低い」
「国際競争力はこの30年で1位から31位に落ちた」など、

どの分野でも日本の未来に

危機感を感じざるを得ないデータが並んでいました。

この現状に対して取り組むべき具体策として

二つの方向性が示されています。

一つは、「旧来の日本型雇用システムからの転換」。

今後は人を大切にする経営への改革を

推進していく必要がある、と述べられています。

二つ目が、「好きなことに夢中になれる教育への転換」です。

このため、公教育の外で才能を育成する

民間プログラムの全国ネットワークの創設等へ取り組むとされています。

国としての方針はなんとなく理解できた、

しかし個人としてはどうしていくべきなのでしょうか。

「正直、どこから手をつければよいかわからない……」

この発表に対して筆者は正直そう感じてしまいました。

しかし雇用や労働に関する内容である以上、

キャリアコンサルタントにとっても無関係ではありません。

人々がそれぞれにとって良い人生を生き、

良いキャリアを築いていくために

私たちはこれらの問題に対してどう関わっていけばよいのでしょうか。

 
 

03. 従業員エンゲージメントとは

 
 
この発表の中で日本人の

従業員エンゲージメントについての項目がありました。

従業員エンゲージメントとは、

「従業員と企業が二人三脚で
同じ未来を描けているかどうかを示す指標」

のことです。

これが高いと「熱意のある社員」が多く、

低ければ「やる気のない社員」が多いということになります。

従業員エンゲージメントが高い企業は、

優秀な人材の流出を防ぐことが出来、

収益性や生産性が高いという調査結果があることから、

日本の経済成長の停滞と

関係があることは間違いないでしょう。

「未来人材ビジョン」では

従業員エンゲージメントの世界基準が20％であるのに対し、

日本はたったの５％。

アジアの中でさえ最低で、

モンゴルより、中国や韓国より低い結果となりました。

この要因を考えるのに、他の項目を見てみると、

・「現在の勤務先で働き続けたい」と考える割合も日本は52％と低い
・日本の課長・部長への昇進は遅く、しかも昇進しても大して給与は上がらない。
・転職や企業の意向を持つ人も2割前後と少ない傾向。
・転職による賃金増加の傾向はたった23％と、いわゆるキャリアアップができる人は少ない。

以上を考慮すると、

「頑張ったところで給与も上がらない会社にいたいわけではない。
かといって外に出て人生が好転するわけでもないから
現状を維持するしかない」

といった、労働者の手詰まりな状態が

浮き彫りになってきました。

これではエンゲージメントは低くなってしまうのも

頷けるというものでしょう。

 
 

04. 労働者・転職者を支援していくために

 
 
こうした状況を踏まえて、

キャリアコンサルタントとしてできることは何でしょうか。

「社会構造を変えるぞ！」といきなり意気込んだとしても、

なかなかうまくはいかない気がします。

それなら、まずは目の前にいる

クライエントに向き合うことからではないしょうか。

つまり、労働者が「未来を諦めてしまっている」状況から、

それぞれの人生に向き合う時間を

持ってもらえるように働きかけることです。

「出る杭は打たれる」ということわざがあります。

将来について真剣に語っても「やめときなよ」と

言われたことがある人も多いのではないでしょうか。

これは個人の問題というより、

国民性によるものでしょう。

しかしこうして出ようとした釘が打たれるのを繰り返すと、

人は将来を語る、

自分の可能性を信じることをやめてしまいます。

その結果が今の日本ではないでしょうか。

だからこそ、その人に寄り添って、

真剣にその人の人生を考え、

鼓舞してくれる人の存在がどれほど有難いことか。

自分を応援してくれる人がいるからこそ、

人間は「もう少し頑張ってみようかな」と思えるものです。

一人ひとりのために向き合っていけば、

自分の人生を肯定し、

更に上を目指そうとする日本人が増えてくるのではないでしょうか。

最初は１人でもいずれは10人、100人と、

あなたと関わることで人生が変わる人が増えていきます。

人が変われば少しずつ組織も変わっていくはずです。

キャリアコンサルタントは、

そんな潮流の中心にいる仕事なのです。

 
 

05. まとめ

 
 
これまでお話をしてきたことをまとめれば、

キャリアコンサルタントとしてすべき方向性は、

実のところこれまでとそう変わりはない、

という結論を筆者は得ました。

むしろこれからの日本を築いていくために

キャリアコンサルタントは絶対に必要な存在だと、

再確認できたと言えます。

これから年々少なくなっていく労働人口の中で、

どれだけ多くの労働者が

自身のパフォーマンスを存分に発揮し、

いきいきと働いていけるかに、

私たちキャリアコンサルタントは関与していけるはずです。

そして一人一人のクライエントを支援するために、

私たちは世情に対して常にアンテナを張り、

カウンセリングスキルの向上に努め、

クライエントのための情報収集を続ける必要があります。

ものすごい速さで世界は変化し続けている中、

それに対応していくための自己研鑽におそらく終わりはないでしょう。

方向性に変わりはありませんが、

やることはたくさんです。

それに、キャリアの専門家だからこそ、

これまでなかった領域を開拓し、

新たな方法で人々のキャリア形成に

アプローチしていけるのではないでしょうか。

「未来人材ビジョン」は

多くの日本人に絶望感を与えましたが、

キャリアコンサルタントの活動領域においては

「追い風」を与えてくれたのだと私は考えます。

もう既にキャリアコンサルタントとして働かれている方、

これからキャリアコンサルタントを目指される方。

是非、一緒にこれからの日本の未来を作っていきましょう。
 
 
参考文献
『未来人材ビジョン』／経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf

 
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