仕事と介護の両立に限界を感じたとき|相談の構造整理と支援の視点
2026.2.4
【架空事例】仕事と介護の両立に限界を感じる相談|“選べない”の正体と支援の整理
現場でよく見られる相談タイプをもとに、支援の考え方をまとめます
「仕事と介護の両立に悩む相談」に対して、キャリアコンサルタントとしてどう整理し、どう問いかけると支援が前に進むかを、架空のモデルケースで解説します。
介護の相談は、制度だけでも、気持ちだけでも解けません。
「責任ある仕事」「家族状況」「本人の価値観」「限界サイン」が同時に動くため、支援者側に“構造化”が求められます。
本記事では、面談・ロールプレイで使えるように、押さえるべき論点/感情キーワード/問いかけ例を整理します。
1. ケース概要(モデル)
2. まず押さえる整理フレーム
3. 背景にある“本当のテーマ”
4. 感情キーワードの深掘り
5. 制度・選択肢の現実化(情報提供のコツ)
6. 問いかけの方向性(ロールプレイ対応)
7. まとめ
01.ケース概要(モデル)
【モデル相談者】
40代後半。中堅企業のIT部門で、現在はプロジェクト責任者(管理・調整の比重が高い立場)。
配偶者は多忙。子どもは学生で、家庭にも一定の負荷がある。
【相談のきっかけ】
半年前に家族の喪失を経験し、遠方で一人暮らしの母親の気力低下や物忘れが目立つようになってきた。
介護が必要になる可能性を感じつつ、仕事は納期・トラブル対応・会議が多く、急に休むことが難しい。
【相談したいこと】
「このままでは両立が限界。介護休業・時短・在宅拡大などを検討すべきか」
「母を引き取る/通う/支援を増やす等、家族としての選択をどう考えるか」
「キャリア(役割・働き方)と家族のことを、どう整理して決めればいいか」
一見すると「制度の相談」ですが、本質は“人生の優先順位が揺れた状態で、重大な選択を迫られている”ところにあります。
02.まず押さえる整理フレーム
介護×仕事の相談は、最初に整理の型を持つと支援が安定します。おすすめは次の4象限です。
(1)介護の現状(事実)
・母の生活状況(食事/服薬/金銭/通院/安全)
・認知機能の変化は「いつから」「どの場面で」
・緊急性(転倒リスク、火の不始末、行方不明など)
(2)仕事の制約(事実)
・休みづらい理由(納期/代替要員/裁量/会議固定)
・繁忙の波(いつがピークか)
・在宅活用の余地(可能範囲/限界)
(3)家族の協力可能性(関係)
・配偶者の現実的な関与(時間・気持ち・役割)
・子どもの負担(学業・生活リズム)
・親族/地域資源の存在
(4)本人の価値観(意味)
・「責任を果たしたい」対象は何か(母/家族/仕事/自分)
・何を守りたいのか(健康/信頼/収入/時間)
・“後悔”は何を指しているのか
この4象限を行き来しながら、事実→意味→選択肢の順で整理していくと、相談者は落ち着きを取り戻しやすくなります。
03.背景にある“本当のテーマ”
このタイプの相談で中心にあるのは、たいてい次の複合テーマです。
1. 「役割の衝突」
仕事の責任者としての役割と、家族(子・配偶者・親)としての役割が同時に最大化しています。
どちらも真面目に背負う人ほど、心身が先に限界に近づきます。
2. 「喪失体験」からの揺らぎ
家族の死は、価値観の再編を引き起こします。
「次は母も…」という不安が、意思決定を急がせたり、極端な思考(全部やる/全部捨てる)を生みやすくなります。
3. “決められない”の正体は情報不足ではない
本人はすでに頑張っています。悩むほど情報も集めています。
それでも決まらないのは、不安が大きく、優先順位が揺れているからです。
ここを扱わずに制度だけ提示すると、相談者はさらに混乱します。
したがって支援の軸は、制度説明の前に「構造」と「気持ち」を整えることです。
04.感情キーワードの深掘り
このケースで拾いたい感情キーワードは、主に次の4つです。
(1)限界感
・「どこが限界に近いのか」(体力/睡眠/集中/イライラ/涙)
・限界サインが出た場面(トラブル対応中/母からの電話/家族の一言)
(2)罪悪感
・母への罪悪感(十分に見られていない)
・仕事への罪悪感(迷惑をかける)
・家族への罪悪感(子どもに負担をかける)
(3)恐れ(将来不安)
・介護が長期化する恐れ
・母の状態が急変する恐れ
・仕事を失う/評価が下がる恐れ
(4)責任感(誇り)
責任感は強みですが、過剰になると「一人で抱える」方向に傾きます。
「責任を果たす=全部自分でやる」ではないと整理できると、支援が前に進みます。
05.制度・選択肢の現実化(情報提供のコツ)
情報提供は「早すぎる」と逆効果になります。
感情と構造がある程度整ってから、次の順で“現実化”していくのが安全です。
ステップ1:介護の支援レベルを見立てる
・今どの支援が必要か(見守り/通院同行/家事/金銭管理)
・緊急度(事故リスク)
→ ここが見えると、選択肢が現実的になります。
ステップ2:使える資源を棚卸しする
・地域資源(相談窓口、ケアマネ、見守りサービス等)
・家族の協力(できること/できないこと)
・職場の制度(介護休業/時短/在宅の拡大/休暇)
ステップ3:選択肢を“短期・中期”で分ける
・短期:通院の同席、見守り強化、訪問頻度の調整、職場へ相談
・中期:勤務形態の調整、役割変更、居住の見直し
ステップ4:試す(実験する)
いきなり「引き取る/辞める」を決めず、
2〜4週間の“仮運用”を提案すると、相談者は安心して動けます。
介護の相談は、「正解を出す」より「不安を小さくしながら試す」支援が有効です。
06.問いかけの方向性(ロールプレイ対応)
ロールプレイ/面談で使いやすい問いかけを「目的別」に整理します。
1)状況(事実)を整える問い
・お母さまの様子で「特に気になる変化」はどんな場面ですか?
・一番心配なのは、どんなことが起きることですか?
・今、どのくらいの頻度で実家へ行っていますか?
2)限界サインを見える化する問い
・「限界かも」と感じたのは、どんな瞬間でしたか?
・睡眠や体調に変化は出ていますか?
・このまま続くと、何が一番崩れそうですか?
3)価値観(優先順位)を扱う問い
・今いちばん守りたいものは何ですか?(健康/家族/仕事/生活)
・「責任を果たしたい」と感じる相手は、どなたに一番強いですか?
・後悔が残るとしたら、どんな後悔だと思いますか?
4)資源・協力を引き出す問い
・ご家族(配偶者・お子さん)とは、どこまで話せていますか?
・「お願いできること」と「難しいこと」を分けるとしたら?
・職場に相談するとしたら、まず誰に・どんな形が現実的ですか?
5)次の一歩(試す)に落とす問い
・まず2週間だけ、負担が減る形を“試す”なら何ができますか?
・今週のうちにできる一つは何でしょう?(連絡/相談/調整)
・その一歩を踏み出すために、いちばん必要な支えは何ですか?
ポイントは、「結論を急がない」こと。
相談者の安心感を回復させ、選択肢を現実化し、次の一歩に落とす流れを意識します。
07.まとめ
仕事と介護の両立相談は、「制度を知っているか」よりも、
“構造化して不安を下げ、試せる選択肢に落とせるか”が支援の要になります。
本記事の要点
・最初に「介護/仕事/家族/価値観」の4象限で整理する
・“決められない”は情報不足ではなく、優先順位の揺れで起きやすい
・限界感・罪悪感・恐れ・責任感の感情を丁寧に扱う
・制度は、気持ちと構造が整ってから“短期→中期”で現実化する
・結論を急がず、まずは仮運用(試す)で次の一歩へ
このタイプの相談で大切なのは、相談者が「一人で背負っている状態」から、
“周囲と分担しながら進める状態”へ移れるよう支援することです。
ぜひ、面談やロールプレイの場面で活用してみてください。
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