リスキリングとキャリアコンサルタント

2025.5.16

 
 

01.はじめに

 
 
最近、「リスキリング」という言葉がニュースやビジネスシーンで

よく取り上げられるようになりました。

直訳すれば「スキルの再習得」。

つまり、一度身につけたスキルにとどまらず、

仕事や環境の変化に応じて新たな知識や技術を学び直すことです。

特にAIやデジタル技術の急速な進展、社会の価値観の多様化、

さらには人生100年時代といった背景から、

多くの人にとって「学び直し」は他人事ではなくなっています。

政府も「人的資本経営」や「構造的な賃上げ」といった政策の一環として、

社会人のリスキリングを後押ししています。

企業も「自律的キャリア形成」や「社内モビリティの促進」といった観点から、

従業員のスキルアップ支援に力を入れ始めています。

こうした時代の変化の中で、キャリアコンサルタントが果たす役割も大きく広がってきています。

 
 

 
 

02.「何を学ぶか」を一緒に見つける

 
 
リスキリングと聞くと、「とりあえずプログラミング」や「AIの勉強」

といったイメージが先行しがちですが、

実際には「何を学ぶべきか」は人それぞれです。

これまでの経験や興味、価値観、そして将来目指したい働き方によって、

適切な学びの内容は変わってきます。

たとえば、ある40代の営業職の方がいました。

会社の業績が伸び悩み、新しい部署への異動を命じられたものの、

「自分にはもう新しいことを学ぶ余裕なんてない」と落ち込んでいました。

そんなときにキャリアコンサルタントと出会い、

これまでの営業経験が実はデータ分析や業務改善にも役立つスキルを

育てていたことに気づきました。

本人の関心もあって、ExcelやBIツールの使い方を学び直し、

最終的には社内の業務効率化プロジェクトの中心メンバーに抜擢されました。

このように、キャリアコンサルタントは

「今あるスキルの棚卸し」と「未来の方向性の整理」を通じて、

相談者が自分にとって意味のあるリスキリングを選べるよう支援します。

ただ情報を提供するのではなく、

対話を通じて内面的な動機づけを育てるプロセスがとても重要です。

 
 

 
 

03.続ける力を引き出す

 
 
リスキリングは短距離走ではなく、むしろマラソンに近い営みです。

最初の一歩を踏み出すことも大切ですが、

それ以上に「続ける力」をどう引き出すかが鍵となります。

キャリアコンサルタントは、学びが一過性で終わらないよう、

相談者の生活リズムや気持ちに寄り添いながら、

学習計画を一緒に立てたり、定期的に振り返りの機会を設けたりすることができます。

特にオンライン学習が主流となっている今、

「一人で黙々と学び続ける」ことの難しさを感じている人は少なくありません。

ある30代会社員の方は、育児休業明けに職場復帰したものの、

業務の変化についていけず、不安を抱えていました。

そこで彼女はリモートで学べるマーケティング講座を受講し始めたのですが、

途中でモチベーションが下がってしまいました。

そんなとき、キャリアコンサルタントとの定期面談が励みになり、

「今月はここまでやる」、「完了したらまた報告する」

というシンプルな約束が、学習の継続を後押ししました。

リスキリングは自己投資であると同時に、

心理的な自己肯定感とも深く関わっています。

だからこそ、キャリアコンサルタントの「伴走者」としての支援が、

学びの成果を左右する大きな要素となるのです。

 
 

 
 

04.キャリアコンサルタント自身も学び続ける

 
 
ここで忘れてはならないのが、

キャリアコンサルタント自身もまた

「リスキリング」の当事者であるという点です。

働き方の価値観が多様化し、技術が日進月歩で進化する中、

相談者に適切な支援を届けるためには、コンサルタント自身も

常に知識や視点をアップデートしていく必要があります。

たとえば、最近ではAIキャリア診断ツールやキャリア支援プラットフォームなど、

テクノロジーを活用した支援が増えています。

これらを使いこなすには、基本的なITリテラシーだけでなく、

「ツールにできること・できないこと」を見極める目が必要です。

また、多様な働き方に対応するために、フリーランスや副業支援、

ライフキャリアの視点など、より広範な知識や経験も求められます。

全国のキャリアコンサルタントの中には、研修や勉強会を通じて実践知を共有したり、

業種を越えたネットワークを築いたりしている方々も増えています。

「学び続ける姿勢」は相談者へのメッセージそのものにもなり、

リアリティのある支援につながっていくのです。

 
 

 
 

05.「変化に強い」人を育てる支援へ

 
 
かつてのように、一つの会社で定年まで勤め上げることが

スタンダードだった時代は終わり、

今は誰もが何度かのキャリア転機を経験する時代です。

そうした変化に柔軟に対応できる人材=「変化に強い人」を育てていくことが、

これからのキャリア支援の大きなテーマです。

リスキリングは、単なるスキルの上書きではありません。

それは、人生をより自分らしく生きるための選択肢を広げるプロセスであり、

未来に向けての希望を育む営みです。

キャリアコンサルタントはその道の案内人として、

ときに応援者として、ときに問いかける存在として、

人の人生にそっと寄り添います。

変化の激しい時代だからこそ、「学び直し」は恐れるものではなく、

自分の可能性を広げるチャンスです。

その第一歩をともに見つけ、ともに歩む——

そんなキャリアコンサルタントの役割は、これからますます重要になっていくことでしょう。